有馬温泉の人形筆は、兵庫県指定の伝統工芸品です。温泉で筆が有名というのは珍しいと思う人もいるかもしれませんが、有馬温泉という環境だからこそ生まれて伝えられてきた歴史を持つのです。かわいらしさや面白みを併せ持つ有馬人形筆が、有馬温泉のお土産として愛されてきた理由をご紹介します。
目次
有馬人形筆のかれこれ
丁寧で精巧な作りに宿る想い
有馬人形筆の由来は、奈良時代にまでさかのぼります。お妃に皇子が生まれないのを心配していた孝徳天皇が有馬温泉に滞在したところ、すぐにご懐妊したというエピソードがあります。その逸話を踏まえて、室町時代の筆職人が人形筆を創作したのが始まりといわれています。そのため、有馬人形筆は子宝を授かる縁起物として有名で、別名「子持ち筆」とも呼ばれています。有馬人形筆は、文字を書こうと筆を持ち上げると、小さな人形が軸の先端から表れ、置くと軸の中に戻るというからくり筆です。豆粒のような大きさの人形は、きちんと着物を着ていてとてもかわいらしいものです。そして、筆の軸は色とりどりの絹糸で艶やかに彩られています。筆はすべて手作業で作られているので、量産することはできません。また、制作できる職人も減り現在は1店だけが取り扱っています。その専門店が、丁寧に伝統を守って大切に手作りを続けているのです。
有馬人形筆の作り方
思わず魅せられるそのこだわり
有馬人形筆の人形は、石膏や小麦粉、竹ヒゴなどで作られています。そして、その人形に糸で重りをくくりつけて筆の軸に仕込むことで、筆の向きによって仕掛けが動き、人形が顔を出したり引っ込めたりできるようになっているのです。その軸は、人形を入れる前に絹糸で巻いて飾られます。2~7色の絹糸が使われていて、基本の模様が作られています。模様は、市松や青海波、うろこ、矢絣の4種類なのですが、色の組み合わせで多様な人形筆ができるのです。有馬人形筆は、人形を仕込まなければならないため、からくり筆になっているのは「太筆」と「中太筆」のみです。しかし、絹糸での文様は「小筆」にも施され、また、有馬は書画用の毛筆でも有名な地域なので、穂先の質も高いのです。眺めて楽しむだけではなく実用性にも富んでいる有馬人形筆は、書道や絵画に実際に使う筆としても活躍してくれる逸品でしょう。
有馬人形筆唯一の専門店【灰吹屋西田筆店】
我が国が認めるその芸術
「灰吹屋西田筆店」は、現在も有馬人形筆の制作を続けているたったひとつの専門店です。有馬温泉の中心地に店を構え、6代目の店主が伝統を守っています。年代を感じさせる店内に入ると、奥で作業をしているところを見ることができます。有馬地区はもともと、古くから毛筆作りが盛んな土地でした。竹や毛筆に使う動物に恵まれていたうえに、有馬温泉に湯治に訪れる貴族や僧侶がたくさんいて、筆を求める人が多かったからです。有馬人形筆は兵庫県指定の伝統工芸品ですが、書画用の有馬筆は重要無形文化財に指定されています。その有馬筆から派生したとされる人形筆もよく作られていて、江戸時代の国学者「本居宣長」が人形筆について詠んだ和歌も残っています。筆を使う人が少なくなり、廉価な外国製品が出てきたこともあって、有馬人形筆を制作するための材料も揃えにくくなりました。しかし、灰吹屋西田筆店は伝統手法にオリジナルのデザインを交えながら、今も手作りの丁寧な仕事を続けています。
伝統工芸品のお土産としてこれ以上ない選択肢
持ち主の幸せを願って
有馬人形筆は、軸の美しさと豆粒のような人形が顔を出すというからくり仕立てが、非常に人気のあるお土産のひとつです。軸のうろこ模様には魔除け、青海波には平穏を願うといった意味もあり、糸の色の種類で幸運を祈願する筆もあります。また、有馬人形筆はまっすぐに立てないと人形がうまく顔を出してくれず、絹糸で持つ部分が滑りづらくなっているため、習字を習い始めの子どもにも喜ばれます。有馬温泉という場所の長い歴史と伝統に裏打ちされた伝統工芸品の有馬人形筆は、年齢や性別を問わず、縁起物としても小物や文房具としてもお土産に適している、といえるでしょう。
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